紛争の内容
群馬県内で事業所を経営する夫が死亡した。事業所を経営する企業の取締役に名をつらねていたが、同社には多額の負債があり、代表者はその連帯保証をしている。同社の生末や、地震の財産を守るためには、同社の負債とその連帯保証債務の多寡を調べる必要があり、その調査にようする期間(熟慮期間)の伸長を求めた事案
交渉・調停・訴訟などの経過
(1)顧問税理士からの紹介
被相続人の経営する企業の顧問税理士を通じて、当事務所に法律相談がありました。
被相続人は、群馬県内に事業所を有しましたが、会社の本店所在地は神奈川の自宅でした。
同社は、その群馬県内の事業所において、無人レジや自動車部品等の組立工場を経営し、また、他社からの業務委託や人材派遣をしていた。
配偶者は、同社の取締役になっていましたが、夫が経営の同社の営業及び財務内容をほとんどといってよいほど知らない、名目的な取締役でした。
(2)会社の継続について
会社定款を調べましたところ、代表者が欠員した場合には他の取締役が代表者となる旨の規定がありましたので、配偶者の方が同定款に基づき、会社の代表者に就任し、登記を済ませました。
事業所の資きりは古参の従業員に任せました。
(3)会社の財産状況
顧問税理士によると、本年3月末締め決算で、簿価負債1億強。(簿価)資産8000万強とのことでしたが、同社借入金のうち合計5000万円相当の金融機関からの借入については、代表者であった被相続人を被保険者とする、団体生命信用保険付きであるとのことでした。
その他、同社の保有不動産としては、事業所のある土地・工場(作業所)があり、その簿価は3000万円弱でした。
(4)法人、代表者の連帯保証債務の継続調査
同社代表者であった被相続人はゴールデンウイーク中に亡くなりました。
企業は休みでしたが、社長である被相続人以外に全容を把握する者がいません。
本店所在地である自宅を探しても、会社事業所の事務所を確認しても、金融機関からの借入同関係書類が見当たらず、金融機関に問合せなどをするほかありませんでした。
(5)被相続人固有の遺産、負債の有無
被相続人は、配偶者名義の自宅に居住し、その他に不動産を保有しているかも配偶者は知りませんでした。
被相続人名義の預金については、被相続人名義で、企業の借入先金融機関に預金を保有している可能性が高いが、その他の金融機関など詳細は不明でした。
被相続人が利用していた自動車は、法人名義であり、被相続人名義に自動車はありません。
(6)その他の相続財産は不明
被相続人である夫の方が経営の法人については、顧問税理士によると、代表者名義の法人への貸付金、取締役である配偶者名義の貸付金の返済を望まなければ、団体信用生命保険の満額支払いがなされ、同社保有不動産が相当額で売却がなされれば、同社の連帯保証債務を相続する、配偶者の方には、債務超過の危険性はないのではないかとの意見もありました。
しかし、帳簿上は、会社は債務超過であるという以上は不明でした。
配偶者の方は、同社代表者に就任し、各金融機関の借入に附帯した団体信用生命保険の保険金支払請求について、各金融機関に協力する所存です。
(7)熟慮期間伸長の必要性
会社の代表者に就任した配偶者相続人は、保険金支払請求権行使などと共に、財産状態の調査を経ないと、この相続を承認・放棄するか判断できませんでした。
夫の経営する会社及び被相続人の財産状況調査の難航により、被相続人の死亡による相続発生後の3か月の法定期間内に、相続を承認するか放棄するかの判断をすることが極めて困難な可能性が否定できませんでした。
本事例の結末
熟慮期間の伸張の審判を受けて、さらに3カ月の調査の猶予を得ました。
その間、法人の財産状況を調査し、同社の事業を整理したところ、やはり、法人は債務超過を解消できず、事業の継続をあきらめ、自己破産を申立てることとなりました。
他方、被相続人の負債の調査をしたところ、連帯保証債務は保険などで賄えるなど、相続人に影響は及ぼす可能性は低いだろうとの見込みが立ちました。
そこで、再度の熟慮期間の伸長もせず、また、相続放棄もせず、本件相続を承認しました。
本事例に学ぶこと
相続は、積極財産を引き継ぐことはもちろんのこと、消極財産である債務も引継ぎます。
本件では、企業の経営者である夫が急逝し、また、配偶者は名目的な取締役であって、夫の経営する企業ンの財務状態、夫の債務の状況を全くと言ってよいほどご存じありませんでした。
企業の顧問税理士から、同社の財政状況の報告を受け、また、法人の事業の実態を知るにつけ、代表者となった配偶者の方は、法人の先行きを決めるとともに、この相続を承認するか、放棄するのか決断を迫られました。
しかし、相続発生後速やかに、弁護士に相談し、その後の調査を進めることによって、相続の方針が決まりました。
本件のように、突然の夫の死、相続の発生とともに、被相続人である夫の経営していた事業の清算についても、適切なアドバイスが可能と事務しております。
弁護士 榎本 誉
弁護士 吉田 竜二
弁護士 木村 綾菜