紛争の内容
本件は、当職が裁判所から破産管財人に選任され、対応した個人の破産事件です。
破産者の方は、以前にも自己破産をして免責許可決定を受けた経験がある方でした。その後、一度は生活を立て直されたものの、再び借入れを重ねることとなり、二度目の破産申立てに至りました。負債が膨らんだ原因は、収入に見合わない支出を続けたことによる浪費と、ギャンブルへの支出でした。
破産法は、過去に免責許可決定を受けた場合、その確定の日から7年を経過していなければ免責を許可しないと定めています。また、浪費や賭博によって著しく財産を減少させたり、過大な債務を負担したりした場合も、免責不許可事由にあたります。本件は、免責不許可事由にあたる事情が複数存在する事案であり、形式的に見れば免責が認められないのではないかと懸念される状況でした。
もっとも、前回の免責許可決定からは15年ほどが経過しており、7年の期間制限自体はクリアしていました。破産管財人としては、浪費やギャンブルの実態がどのようなものであったのか、前回の破産後にどのような経緯をたどって再び債務を負うに至ったのか、そして今後、同じことを繰り返さずに生活を維持していくことができるのかを、慎重に見極める必要がありました。
交渉・調停・訴訟等の経過
まず、破産者の方から事情を詳しくお聴きするとともに、通帳の入出金履歴、クレジットカードの利用明細、各債権者からの取引履歴等を取り寄せ、借入れと支出の流れを時系列で一つひとつ照合していきました。
その結果、ギャンブルへの支出や収入に見合わない支出が繰り返されていたことは確認されましたが、他方で、財産を隠匿した事実や、返済の見込みがないことを隠して借入れを行ったといった悪質な行為は認められませんでした。また、債権者を害する目的での財産の処分や、特定の債権者にのみ返済を行うような偏頗弁済の事実も認められませんでした。
前回の破産からの経過についても確認したところ、前回の免責後、破産者の方は長期間にわたり借入れをすることなく生活を維持していたこと、その後の生活環境の変化をきっかけに再び支出が膨らみ、徐々に借入れに頼る状況へと陥っていったことが明らかになりました。
そのうえで、破産管財人として、破産者の方に家計の状況を継続的に記録していただくこととしました。破産者の方は、毎月の収入と支出を家計簿に細かく記録し、求めた資料を期限どおりに提出するなど、真摯に取り組まれました。記録された内容を確認しながら、支出の見直しや、収入の範囲内で生活を組み立てていくための具体的な助言を行い、破産者の方もこれを素直に受け止め、実際に生活を改めていかれました。ギャンブルについても、申立て後は一切行っていないことが、家計の記録および預貯金の動きからも裏づけられました。
また、管財人面談においても、破産者の方は過去の行動について言い逃れをすることなく、自らの問題を率直に認め、反省の弁を述べられました。質問に対しても誠実に回答され、不自然な説明や事実の隠蔽をうかがわせるような点は一切ありませんでした。
これらの調査と経過を踏まえ、破産管財人として、浪費および賭博という免責不許可事由は存在するものの、前回の免責許可決定から15年という相当の期間が経過していること、財産隠匿等の悪質な行為が認められないこと、申立て後は家計管理に真摯に取り組み生活態度を改めていること、反省の情が認められ再び同じ状況に陥る可能性は低いと考えられることから、免責を許可することが相当であるとの意見書を裁判所に提出しました。
本事例の結末
裁判所は、破産管財人の調査結果と意見を踏まえ、裁量による免責許可の決定を出しました。
二度目の破産であり、浪費およびギャンブルという免責不許可事由を抱えた事案でしたが、破産者の方が調査に誠実に協力し、生活の立て直しに真摯に取り組まれたことが評価された結果といえます。これにより、破産者の方は債務の負担から解放され、あらためて生活を再建していく道が開かれました。
本事例に学ぶこと
二度目の破産であることや、浪費・ギャンブルが借金の原因であることを理由に、免責は認められないだろうと考えて、申立てをためらわれる方は少なくありません。しかし、免責不許可事由に該当する行為があったからといって、直ちに免責が認められなくなるわけではありません。破産法は、そうした事情がある場合でも、一切の事情を考慮して裁判所が裁量により免責を許可することができると定めており、実務上も、この裁量免責によって救済される事案は数多くあります。
その判断において重視されるのは、過去の行為そのもの以上に、現在の姿勢です。具体的には、財産を隠したり債権者を欺いたりするような悪質な行為がなかったか、手続のなかで誠実に説明や資料提出を行っているか、そして生活を改め、同じことを繰り返さない見込みがあるかという点です。本事例でも、破産者の方が家計簿を丁寧に作成し、管財人面談において自らの問題を率直に認めて誠実に対応されたことが、判断を大きく左右しました。
また、過去に免責を受けている場合であっても、前回の免責許可決定の確定から7年が経過していれば、その一事をもって免責が否定されることはありません。本件では15年という長い期間が経過しており、この点も有利な事情として考慮されました。
破産手続において最も避けるべきは、不利な事実を隠そうとすることです。隠した事実が後に判明すれば、かえって免責の判断に決定的な悪影響を及ぼします。事実をありのままに伝え、求められた資料を誠実に提出することが、結果としてご本人の利益につながります。
借金の経緯に不安のある方ほど、ご自身で判断して諦めてしまわず、早い段階で弁護士にご相談いただくことが大切であると、本事例は示しています。
弁護士 遠藤 吏恭





