紛争の内容

本件で当職が担ったのは、依頼者の代理人ではなく、裁判所から選任された破産管財人という立場でした。破産管財人は、破産者の財産を調査して換価し、債権者への公平な配当を図るとともに、その破産者に免責を認めてよいかどうかを調査して裁判所に意見を述べる役割を負っています。破産者の味方でも債権者の味方でもなく、あくまで中立の立場から、時に厳しい目をもって事実を見極めることが求められる職責です。

本件の破産者は、数百万円規模の負債を抱えた方でした。もっとも、その負債の大半は、ご自身で起こした事業が、取引先の倒産のあおりを受けて経営難に陥り、収入が途絶えてしまったことに端を発するものでした。生活を維持するための費用や、それを補填するためのクレジットカードのリボルビング払いなどが積み重なった結果だったのです。

しかし調査を進めるなかで、免責との関係で見過ごすことのできない事情が浮かび上がりました。破産者が、数年間にわたって競馬などのギャンブルを続けていたことです。これは、偶然の利益を得ようとする射幸行為にあたり得るもので、破産法が定める免責不許可事由に該当する可能性がありました。しかも破産者は、弁護士に依頼した後もしばらくの間、ギャンブルを続けていたのです。

さらに、当職が破産者と面談したところ、破産手続開始の申立書に記載されていない財産が保有されていることも判明しました。書類上には現れていなかった資産が、後から明らかになったのです。中立の立場に立つ管財人として、これらをどう評価し、裁判所にどのような意見を述べるべきか。本件は、決して単純な事案ではありませんでした。

交渉・調停・訴訟等の経過

当職がまず取り組んだのは、破産者の財産状況を余すところなく明らかにすることでした。面談の場で判明した未申告の株式については、その取得額と、破産手続開始決定時および直近時点それぞれの評価額を精査しました。株価は日々変動するものですから、どの時点の価額をもって財団に組み入れるのが公平かという判断が必要になります。当職は、より現在に近い直近時点の評価額をもって組み入れさせることが相当であると考え、その処理方針について裁判所の意見を求める書面を提出しました。

もっとも、株式そのものは特定口座内にあり、かつ少額でした。これを換価しようとすれば、その費用のほうがかさんでしまいかねません。そこで当職は、評価額に相当する金銭を破産財団に組み入れさせたうえで、株式自体については破産財団から放棄する許可を求める方針をとりました。形式的に処理するのではなく、債権者にとって実質的に意味のある形を選び取る。ここに管財人としての判断が求められる場面がありました。

このほかにも、転送されてきた郵便物から未払いの放送受信料があることが判明し、当該事業者を新たな債権者として手続に取り込みました。租税の滞納についても関係機関へ通知を発するなど、漏れのない処理を進めています。破産者が申告していなかった事柄が調査の過程で次々と明らかになる以上、管財人としては当然に警戒の度を強めざるを得ません。当職も、その姿勢で調査にあたりました。

そのうえで最も慎重を要したのが、免責に関する調査でした。当職は、免責不許可事由に該当する事情があることを、まず率直に認定しました。安易に破産者の言い分を受け入れることなく、その行為の内容と実態を、客観的な資料に照らして確かめていったのです。

そのように厳格に検証していった結果、見えてきたのは次のような事実でした。ギャンブルといっても、もともと馬を好んでいた破産者が、大きなレースに限って一回あたり数百円から数千円程度の馬券を購入していたという程度であり、その射幸性も費消額も限定的なものでした。負債全体に占める割合も、決して大きくはありませんでした。弁護士への依頼後もしばらく続けていた点は、本来慎むべき行動として問題があります。もっとも、それが免責との関係で不利に働き得ることを認識していなかったにすぎず、当職が指摘して以降は一切行っておらず、今後も行わない旨をはっきりと述べていました。破産の原因から距離を置き、反省の態度を示しているものと見ることができました。

加えて、破産者は過去に破産や免責の決定を受けたことがなく、本件が初めての債務整理であったこと。現在は上場企業に勤めて安定した収入を得ており、配偶者も就労しているなど、経済的更生に向けた生活環境が整っていること。そして、家計収支表の提出をはじめ、当職の調査に対して誠実に協力していたこと。これらを総合的に評価し、当職は、免責不許可事由に該当する事案ではあるものの、裁量免責が相当である旨の意見を裁判所に提出しました。

本事例の結末

破産財団としては配当を行えるだけの規模には至らなかったため、本件は異時廃止という形で手続を終えることになりました。そして免責については、当職の意見も踏まえ、破産者に対する免責が認められることとなりました。破産者の免責に反対する意見は、債権者から特段寄せられることもありませんでした。

事業の失敗という不運に見舞われて行き詰まってしまった一人の方が、法の定める手続を経て、もう一度人生をやり直す機会を得たことになります。管財人という中立の立場にありながらも、厳しい目で事実を掘り下げたうえでこうした結末に至ったことには、当職としても静かな充足を覚えました。

本事例に学ぶこと

破産手続において、いわゆる免責不許可事由に当たる事情があること自体は、直ちに免責が認められないことを意味するわけではありません。法律は、たとえそうした事情があっても、破産に至った経緯やその他一切の事情を考慮して相当と認められるときは、裁判所の裁量によって免責を許可できる仕組みを用意しています。本件は、その裁量免責が働いた一例です。

そこで重要となるのは、表面的な事実の分類ではなく、その背景に何があったのかを掘り下げることです。同じ「ギャンブル」であっても、収入を度外視した多額の賭けを繰り返していたのか、趣味の延長として一回あたり数百円程度を投じていたにすぎないのかで、評価は大きく異なってきます。事情を丁寧に整理し、なぜ免責が相当といえるのかを筋道立てて示すことの意味は、決して小さくありません。

同時に、本件は破産をお考えの方への警鐘も含んでいます。申立ての段階で財産を漏れなく申告すること、そして弁護士に依頼した後は、免責に影響し得る行為を控えることです。本件で破産者に大きな不利益が及ばなかったのは、その後の対応が誠実であったことによるところが大きいといえます。管財人の調査に真摯に向き合う姿勢は、評価を左右する要素となり得ます。逆に、財産を隠したり調査に協力しなかったりすれば、厳しい判断につながりかねません。

破産手続は、返済に行き詰まった方が生活を立て直すために法律が用意した、再出発のための制度です。「自分には後ろめたい事情があるから免責されないのではないか」と一人で思い悩み、相談をためらってしまう方は少なくありません。しかし、その事情がどう評価されるべきかは、専門家が背景まで含めて検討してみなければ分からないものです。どうか一人で抱え込まず、まずはグリーンリーフ法律事務所にご相談ください。私たちは、破産管財人としての経験も踏まえ、皆様が新たな一歩を踏み出せるよう力を尽くしてまいります。


弁護士 時田 剛志