自己破産の「否認権」とは?やってはいけない行為と否認権行使の仕組みを解説します

「借金が返せなくなりそうだから、今のうちに車を友人に安く譲ってしまおう」「自己破産する前に、いつもお世話になっている知人にだけは優先して借金を返したい」

自己破産を検討されている方の中から、このような声をよく耳にします。差し押さえられたくない、あるいは周囲に迷惑をかけたくないというお気持ちはよく分かります。

しかし、これらの行為はすべて、自己破産手続きにおける「否認権」という強力なルールの対象となり、最終的にすべて白紙に戻されてしまう(無効化される)可能性が極めて高いのをご存存でしょうか。

最悪の場合、せっかく申し立てた自己破産で借金が帳消しにならない(免責不許可)ばかりか、財産を譲り受けた大切な家族や友人を巻き込んで裁判沙汰になるリスクすらあります。

本コラムでは、前提として自己破産手続きの流れを解説し、自己破産において絶対に知っておくべき否認権とはどのような権利なのか、対象となる具体的な行為、そしてトラブルを避けて安全に債務整理を進めるための方法を、弁護士が分かりやすく解説します。

自己破産手続きの流れ

自己破産手続きの流れ

自己破産は、申し立てると、裁判所によって、破産管財人という弁護士が選任され、破産者の財産を換価して現金を確保し、債権者に配当したり、免責不許可事由があるかどうかの調査等の職務を行う「管財事件」と破産管財人が選任されることなく、破産手続き開始の決定と同時に破産手続き廃止の決定がなされる「同時廃止事件」のいずれかに振り分けられます。

破産法は、管財事件を原則としており(破産法31条1項)、同時廃止は、「破産財団をもって破産手続費用を支弁するのに不足する」ときに認められる例外的な手続とされています(破産法216条1項)。

以下のような場合には管財事件に振り分けられることになります。

  • 破産手続開始決定時点で多額の現金を有している場合
  • 破産手続開始決定時点で換価対象となる高額な財産を有している
  • 破産者が個人事業主の場合
  • 免責不許可事由がある場合

管財事件における自己破産手続きの流れは以下のとおりです。

①裁判所へ自己破産の申立て

まず、必要書類を揃え、裁判所に自己破産の申し立てをします。

②破産手続開始決定

裁判所が書類を審査し、破産手続の開始決定をします。
同時に破産管財人の弁護士が選任されます。

③管財人面談

破産手続の開始決定後、まずは弁護士と一緒に破産管財人の事務所へ向かい、面接を行います。そこでは、借金の理由やそこから破産に至った経緯、現在の生活状況などについて質問されます。

④財産の調査・換価

管財人が、あなたの所有する不動産、車、保険解約返戻金などを調査し、債権者に配当するための現金に換えます。

否認権行使の対象となるような破産者による財産処分行為等があれば調査をし、必要であれば否認権の行使をし、財産の回収を図ります。

また、免責不許可事由についても調査を行います。

⑤債権者集会・免責審尋

裁判所にて債権者集会が行われ、破産者は必ず出席しなければいけません。

債権者集会は文字通り債権者が出席することもありますが、個人の破産の場合、カード会社や金融機関が出席することはあまりないです。

債権者集会では、管財人が裁判官に調査の内容を報告します。

その後、分配する財産がない場合は「異時廃止」といって、手続きは終了します。

分配する財産がある場合は、配当手続きに移り、債権者への配当が完了した後に破産手続きは終了となります。

なお、債権者集会は1回で終わるとは限りません。財産の処分や、免責の調査に時間がかかる場合は、2回以上行われる場合もあります。複数回行われるときは、2か月~3か月程度間隔をあけることが多いですが、事案ごとに異なります。

債権者集会に引き続いて、裁判官が免責許可を与えてよいか調査をする免責審尋手続きが行われます。

⑥免責許可決定

その後、裁判所が免責を認めてもよいと判断すれば、「債務を免除して良い」という免責許可決定が出され、債務の支払義務が免除されます。

否認権とは

否認権とは

否認権とは、破産管財人に認められて権利であって、詐害的な破産者の行為等の効力を否定し、散逸した破産者の財産を取り戻す権利のことを言います。

自己破産は、裁判所の手続きを通じて破産者の借金を免除する制度であって、支払い不能に陥った債務者の財産を債権者に公平に分配することを目的としています。そのため、破産手続開始決定後は、破産管財人という弁護士が、破産者の財産の管理・処分を行います。

もっとも、破産手続開始決定前であれば、債務者は自分の財産を自由に処分することができてしまいます。そうすると、破産を間近に控えた人が、自分の身内にだけ優先して返済したり、自分の身内に廉価で財産を譲ったりすることが考えられます。そのような行為を許してしまえば、支払い不能に陥った債務者の財産を債権者に公平に分配するという自己破産手続きの目的を達成することができません。

そのため、破産法は、破産管財人に対し、支払い不能に陥った債務者の財産を債権者に公平に分配することを目的を達成するために、否認権という権限を認めているのです。

否認権の行使がなされると、破産者が行った行為の法的効力が、破産財団との関係で否定され、破産財団に散逸した財産が取り戻されることになります。

また、否認権行使の対象となるような財産隠しや偏頗(へんぱ)弁済は、免責不許可事由に該当するため、借金の免除が認められなくなってしまうおそれがありますので注意が必要です。

否認権の類型

否認権の類型

否認権の行使がされる可能性がある代表的な2つの類型を紹介します。

詐害行為否認

詐害行為とは、破産者の財産自体を減少させる行為のことをいいます。例えば、破産者が自己の有する財産を第三者に無償で譲渡する行為、財産を適正価格よりも安価で売却したりする行為等が詐害行為に当たります。。

このような詐害行為を認めてしまうと、債権者に分配するはずであった財産が減少し、債権者全体の利益を害してしまいます。そこで、破産法はそのような行為を否認対象行為として規定しています。

偏頗(へんぱ)行為否認

偏頗(へんぱ)行為とは、特定の債権者のみを優遇し、債権者間の平等を害する行為のことことをいいます。例えば特定の債権者のみに債務を弁済したり担保を供与したりすること等が偏頗行為に該当します。

このような偏頗行為を認めてしまうと、家族や友人に対し借金を優先して返して、銀行等には返さないといった債権者の平等を害してしまいかねません。そこで破産法はそのような行為を否認対象行為として規定しています。

否認権はどのように行使されるのか

否認権はどのように行使されるのか

まず、破産管財人は、受益者に対し、内容証明を送り、任意の支払いを求めます。

任意の支払いを受けれなければ、破産管財人は、裁判所に対し、否認の請求又は否認の訴えをし、裁判所に判断をしてもらうことになります。

否認権の行使がされないよう自己破産するための対処法

否認権の行使がされないよう自己破産するための対処法

ここまで読んで、「過去にやってしまったかもしれない」「どうすれば安全に手続きできるのか」と不安になった方もいるでしょう。否認権行使に関するトラブルを避け、無事に免責を得るための正しい対処法を解説します。

対処法①:法律事務所に相談する前に、絶対に「勝手な行動」をしない

借金の返済が行き詰まったら、まずは何よりも先に弁護士に相談してください。

「相談する前に、とりあえず身内の借金だけ返しておこう」「車を他人の名義に変えておこう」という事前の自己判断が、後から命取りになります。何もしない状態で相談に来ていただくのが、最も安全かつ迅速に解決できる方法です。

対処法②:過去の財産処分や返済は、弁護士にすべて正直に話す

もし、すでに知人への返済や財産の名義変更を行ってしまっていたとしても、弁護士には絶対に隠さず、すべてを正直に打ち明けてください。

弁護士はあなたの味方です。事前に事情を把握していれば、以下のような事前の法的対策やシミュレーションが可能になります。

管財人への事前説明の準備

なぜその行為を行ったのか、合理的な理由を証明する資料を事前に準備できます。

任意売却などの正当な手続きへの切り替え

 財産を不当に処分するのではなく、弁護士の管理下で適正価格で売却し、債権者に公平に配分する手続きをとることで、否認権の発動を防ぎます。

「裁量免責」の獲得へのアプローチ

仮に否認対象行為があっても、反省の態度を示し、管財人の調査に全面的に協力することで、裁判所の裁量によって免責を認めてもらう道を探ります。

対処法③:遺産相続が発生した場合、家庭裁判所での相続放棄も検討

もし自己破産手続き申立て前に被相続人が亡くなってしまい遺産相続が発生した場合は、相続開始を知った時から3ヶ月以内に、家庭裁判所で正式に相続放棄の手続きを行うという方法を取ることも考えられます。相続放棄をすることによって、初めから相続人ではなかったものとみなされその他の相続人に相続されるため、相続財産が自己破産によって処分されることは無くなります。

そして、相続放棄は身分上の自由な意思決定であるため、原則として否認権の対象にはならないとされています。ただし、タイミングや状況による個別判断もあるため、必ず事前に弁護士へ確認することを強く進めます。

まとめ

まとめ
  • 否認権とは、破産管財人に認められて権利であって、詐害的な破産者の行為等の効力を否定し、散逸した破産者の財産を取り戻す権利のことをいう。
  • 詐害行為とは、破産者が自己の有する財産を第三者に無償で譲渡する行為、財産を適正価格よりも安価で売却したりする行為等の破産者の財産自体を減少させる行為であって、否認権行使の対象となっている。
  • 偏頗(へんぱ)行為とは、特定の債権者のみに債務を弁済したり担保を供与したりする行為のような特定の債権者のみを優遇し、債権者間の平等を害する行為のことをいい否認権行使の対象となっている。
  • 債務の返済で苦しんでいる方は、まずは弁護士に相談を。
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■この記事を書いた弁護士
弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 椎名 慧
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