
「借金が膨れ上がってしまい、自己破産を検討している」「しかし、近いうちに親の遺産相続が発生しそうで、自分が破産すると相続権を失ってしまうのではないかと不安だ」
このようなお悩みを抱えて当事務所にご相談に来られる方は、決して少なくありません。
結論から申し上げますと、自己破産をしたからといって、法律上の相続人としての地位を失うわけではありません。 自己破産後であっても、親や親族の遺産を相続すること自体は可能です。
しかし、「相続した遺産を自分の手元に残せるかどうか」「どのタイミングで相続が発生したか」によって、その遺産の行方は大きく変わります。場合によっては、せっかくの遺産がすべて借金の返済(債権者への配当)に充てられてしまうこともあります。
本コラムでは、前提として自己破産の概要を解説したうえで、自己破産と遺産相続が重なった場合の法律上の扱い、相続が発生するタイミング別の注意点について弁護士が分かりやすく解説します。
自己破産の概要

自己破産とは、債務の返済が苦しくなってしまった場合に、支払いの全額または一部を免除してもらう等の方法によって債務に関する悩みを解決できる制度である債務整理の手続きのうちのひとつです。
債務整理には、自己破産、個人再生、任意整理といった手続きがあります。
そのうち自己破産は、債務者の収入や財産では債務の返済ができなくなってしまった場合に、裁判所に申し立て、債務の返済義務を免除してもらうことで破綻してしまった生活を立て直すための手続きです。
自己破産の要件
自己破産が認められるためには、以下の要件を満たしている必要があります。
支払不能の状態であること
破産法第2条11項は、「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態と規定しています。
すなわち債務者の方の資産・負債の状況、収入・支出、債務者の方の信用等を考慮して判断されます。
免責不許可事由がないこと
以下の免責不許可事由があると、原則自己破産が認められないことになります(破産法252条各号)。
- 債務者の財産を不当に減少させる行為
- 不当な債務負担行為
- 特定の債権者に利益があるように支払いをする行為
- 浪費やギャンブルによる借り入れ
- 詐術による信用取引
- 帳簿を隠す行為
- 虚偽の債権者名簿を提出する行為
- 裁判所への説明を拒絶したり、虚偽の説明をしたりする行為
- 破産管財人等の業務を妨害する行為
- 過去7年以内に免責を受けたことがある場合
- 破産法上の義務違反行為
もっとも、免責不許可事由があっても、自己破産に至った経緯や反省の態度、誠実な手続き協力などを総合的に考慮し、裁判所の判断で免責を許可すること(裁量免責 破産法252条2項)も広く認められていますので、免責不許可事由があったとしても自己破産が認められる可能性は十分あります。まずは弁護士にご相談ください。
自己破産の効果
自己破産によって以下の効果が生じます。
債務の支払い義務が免除される
自己破産をすることによって、非免責債権(※)を除いてすべての債務の支払い義務がなくなります。
(※)非免責債権には以下のものなどがあります。
- 租税等の請求権
- 悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
- 婚姻費用又は養育費
自由財産を除く財産の処分がされてしまう
一方で、債務者の財産は、自由財産(原則99万円までの現金)を除き、換価され、債権者に配当されてしまいます。
したがって、自動車などの財産は原則手元に残すことはできません。なお、このような財産でも裁判所の許可を得て自由財産として残すことができる場合もあります(自由財産の拡張と言います)。
自己破産手続きの流れ

自己破産は、申し立てると、裁判所によって、破産管財人という弁護士が選任され、破産者の財産を換価して現金を確保し、債権者に配当したり、免責不許可事由があるかどうかの調査等の職務を行う「管財事件」と破産管財人が選任されることなく、破産手続き開始の決定と同時に破産手続き廃止の決定がなされる「同時廃止事件」のいずれかに振り分けられます。
破産法は、管財事件を原則としており(破産法31条1項)、同時廃止は、「破産財団をもって破産手続費用を支弁するのに不足する」ときに認められる例外的な手続とされています(破産法216条1項)。
以下のような場合には管財事件に振り分けられることになります。
- 破産手続開始決定時点で多額の現金を有している場合
- 破産手続開始決定時点で換価対象となる高額な財産を有している
- 破産者が個人事業主の場合
- 免責不許可事由がある場合
管財事件における自己破産手続きの流れは以下のとおりです。
①裁判所へ自己破産の申立て
まず、必要書類を揃え、裁判所に自己破産の申し立てをします。
②破産手続開始決定
裁判所が書類を審査し、破産手続の開始決定をします。
同時に破産管財人の弁護士が選任されます。
③管財人面談
破産手続の開始決定後、まずは弁護士と一緒に破産管財人の事務所へ向かい、面接を行います。そこでは、借金の理由やそこから破産に至った経緯、現在の生活状況などについて質問されます。
④財産の調査・換価
管財人が、あなたの所有する不動産、車、保険解約返戻金などを調査し、債権者に配当するための現金に換えます。
⑤債権者集会・免責審尋
裁判所にて債権者集会が行われ、破産者は必ず出席しなければいけません。
債権者集会は文字通り債権者が出席することもありますが、個人の破産の場合、カード会社や金融機関が出席することはあまりないです。
債権者集会では、管財人が裁判官に調査の内容を報告します。
その後、分配する財産がない場合は「異時廃止」といって、手続きは終了します。
分配する財産がある場合は、配当手続きに移り、債権者への配当が完了した後に破産手続きは終了となります。
なお、債権者集会は1回で終わるとは限りません。財産の処分や、免責の調査に時間がかかる場合は、2回以上行われる場合もあります。複数回行われるときは、2か月~3か月程度間隔をあけることが多いですが、事案ごとに異なります。
債権者集会に引き続いて、裁判官が免責許可を与えてよいか調査をする免責審尋手続きが行われます。
⑥免責許可決定
その後、裁判所が免責を認めてもよいと判断すれば、「債務を免除して良い」という免責許可決定が出され、債務の支払義務が免除されます。
自己破産しても遺産の相続をすることはできるのか

自己破産をしても、そのことから遺産を相続する権利が失われるものではありません。しかし、相続開始時である被相続人が亡くなった日のタイミングによっては、自己破産による換価・処分の対象となる財産となってしまいますので注意が必要です。
自己破産申し立て前に被相続人が亡くなった場合
裁判所に自己破産手続を申し立てる前に被相続人が亡くなった場合,相続人は相続財産を受け取ることができます。
しかし、その後自己破産手続の中で受け取った財産は破産管財人によって処分・換価されてしまうので,結果として相続財産を失うことになります。
また、相続財産の金額によっては、支払不能ではないと判断され、そもそも自己破産が認められなくなってしまう可能性があります。
自己破産開始決定前に被相続人が亡くなった場合
自己破産の申し立てをすると、1~2か月くらいで破産手続開始決定が出ます。自己破産申立後から破産手続開始決定が出されるまでの間に被相続人が亡くなると、相続財産は、破産者の財産ということになり、換価・処分の対象となります。
破産手続開始決定時までに遺産分割協議が終了しており、破産者が一定の財産を受け取ることになっている場合、その財産は、破産管財人によって換価・処分されてしまいます。もっとも、どうせ換価・処分されてしまうからといって破産者が他の相続人に多くの相続財産を譲ってはいけません。そのような行為をしてしまうと破産管財人が後から否認権を行使して,他の相続人に渡った財産を回収する可能性があります。
破産手続開始決定時までに遺産分割協議が終了していない場合には、破産管財人が破産者に代わって遺産分割協議を進めます。そして、破産者の相続財産となったものを換価・処分します。
自己破産開始決定後に被相続人が亡くなった場合
破産管財人は、破産者の財産を債権者に公平に分配するため、破産者の財産を管理・処分することで破産財団を形成します。
そして、破産法では、破産財団を構成する財産の範囲を、破産手続開始時に破産者が有する財産に限定しています(破産法34条1項)。
したがって、破産手続開始後に破産者が新たに取得した財産は破産者の自由財産となります。このような財産を新得財産といいます。
そのため、破産手続き開始決定後に、被相続人が亡くなった場合、相続財産は新得財産ということになるため、管財人によって処分されることはありません。
相続放棄をすることはできるか

裁判所への自己破産の申し立て前であれば、相続放棄をすることができます。相続放棄をすることによって、初めから相続人ではなかったものとみなされその他の相続人に相続されるため、相続財産が自己破産によって処分されることは無くなります。
もっとも、自己破産の申し立て後には、相続放棄をしてもその効果は限定承認(被相続人のプラスの財産からマイナスの財産を差し引いてプラスがあればそれを相続するというものです。)の効果しか生じません。そして、限定承認で得た相続財産は、破産管財人によって換価・処分されてしまいます。
まとめ

- 自己破産を申し立てるためには、支払不能であること、免責不許可事由がないことが必要である。
- 自己破産をしても、そのことから遺産を相続する権利が失われるものではないが、相続開始時である被相続人が亡くなった日のタイミングによっては、自己破産による換価・処分の対象の財産となることがある。
- 自己破産申立後から破産手続開始決定が出されるまでの間に被相続人が亡くなると、相続財産は、破産者の財産ということになり、換価・処分の対象となる。
- 破産手続き開始決定後に、被相続人が亡くなった場合、相続財産は新得財産ということになり、換価・処分の対象とはならない。
- 自己破産申し立て前は相続放棄をすることができる。
- 債務の返済で苦しんでいる方は、まずは弁護士に相談を。
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