紛争の内容
ご依頼者様は、30代の男性会社員でした。より良いキャリアを求めて数度の転職を繰り返す中で、収入のない期間の生活費や交際費が嵩み、クレジットカードやカードローンの利用が増えていきました。気づいた時には借金総額は数百万円に膨らみ、毎月の返済に追われる苦しい生活を送っていました。
このままでは将来の見通しが立たないと判断し、人生をリセットするために当事務所にご相談され、自己破産の申立て準備を進めることになりました。しかし、まさにその準備の最中、会社から海外支社への転勤という、予期せぬ辞令が下されたのです。
「海外に行ってしまったら、もう日本の裁判所で破産手続きはできないのではないか」「せっかく再スタートを決意したのに、すべてが水の泡になってしまうのか」と、ご依頼者様は不安をかかえましたが、当方で以下の通り対応をしました。
交渉・調停・訴訟等の経過
自己破産の申立ては、原則として申立人の「住所地」を管轄する裁判所で行います。海外へ転勤し住民票も移してしまうと、この「住所地」が日本にないことになり、申立てが非常に困難になります。
しかし当職は、ご依頼者様の出国前の最後の住所地が埼玉県内にあったことに着目。さいたま地方裁判所に対して、これまでの経緯とご依頼者様の状況を詳細に説明した上申書を提出し、特例的に管轄を認めてもらうよう粘り強く交渉しました。その結果、裁判所は当方の主張を認め、無事に申立てを受理しました。
次に問題となったのが、裁判所から選任された破産管財人との面談です。通常は国内で対面で行いますが、ご依頼者様は海外にいるため不可能です。そこで当職が管財人と協議し、WEB会議システムを利用したオンラインでの面談が実現できるよう調整しました。
さらに、ご依頼者様には海外の銀行に給与振込口座があり、そこにも貯金がありました。現地の言語で書かれた取引明細の翻訳や、為替レートを考慮した正確な資産報告など、煩雑で困難な作業が多数ありましたが、当職が全面的にサポートし、すべての資料を不備なく管財人に提出しました。
本事例の結末
数々の困難がありましたが、当職のサポートのもと、ご依頼者様は管財人の調査に誠実に対応し続けました。その結果、裁判所は全ての事情を考慮した上で、無事に「免責許可決定」を下しました。
これにより、ご依頼者様は借金の全ての支払義務から解放されました。
本事例に学ぶこと
自己破産の手続きの途中で海外転勤が決まるなど、予期せぬ事態が起きても、決して諦める必要はありません。管轄の問題や海外資産の取り扱いなど、通常とは異なる複雑なケースであっても、経験豊富な弁護士が状況に応じて最適な解決策を導き出します。どのような困難な状況であっても、まずは「もう無理だ」と一人で判断せず、専門家である弁護士にご相談いただくことが、解決への最も重要な第一歩です。
弁護士 申 景秀