紛争の内容
ご依頼者は、数十年間にわたり地域で金属加工業を営んできた町工場の代表取締役(60代男性)でした。誠実な仕事ぶりで取引先からの信頼も厚かったものの、近年の受注減少と後継者不在の問題に直面。ご自身の年齢や健康を考え、会社の廃業を決断されました。
しかし、会社には金融機関からの借入金が残っており、そのすべてに代表取締役ご自身が個人保証をしていました。会社の資産だけでは借入金を返済できず、会社と代表取締役個人の両方で破産手続を進めざるを得ない状況でした。長年連れ添った工場や機械、そして数名の従業員のことなど、何から手をつければよいか分からず、精神的に追い詰められた状態で当事務所にご相談に来られました。

交渉・調停・訴訟等の経過
ご相談を受け、当職はまず代表取締役のお話をじっくりと伺い、会社の資産状況や負債、従業員への想いを正確に把握しました。その上で、今後の見通しと、会社・個人双方の破産申立てという法的手続きについて分かりやすくご説明しました。
正式にご依頼いただいた後、当職は直ちに現地の工場へ赴き、建物の状況や残された機械設備を直接確認しました。これにより、裁判所に提出する資産目録を正確に作成し、その後の手続きを円滑に進める準備を整えました。また、長年会社を支えてくれた従業員の皆様に対しては、代表取締役のお気持ちを汲み取りながら、法的に適切な形で説明と解雇手続きを行えるよう助言し、トラブルなく円満な退職を実現しました。
その後、速やかに裁判所へ法人破産と自己破産の申立てを行い、裁判所から選任された破産管財人と密に連携を取りながら、手続きを進めました。

本事例の結末
申立て後、工場の土地建物や機械設備は、破産管財人によって適切に売却され、債権者への配当に充てられました。従業員との間にも最後までトラブルは発生せず、非常に穏当に手続きは進みました。
申立てから約1年後、会社の破産手続きは無事に終結し、法人格は消滅しました。同時に、代表取締役個人の自己破産についても免責許可決定(借金の支払義務がなくなる決定)が下り、個人保証という重荷から解放されました。これにより、代表取締役は長年の経営の責務から解放され新たな一歩を踏み出すことができました。

本事例に学ぶこと
会社の経営が行き詰まり、廃業を選択せざるを得ない場合、経営者の方が一人で全ての悩みを抱え込むケースは少なくありません。しかし、早い段階で弁護士にご相談いただくことで、資産の保全や従業員への対応、そして何より経営者ご自身の今後の生活再建までを見据えた、最善の道筋を立てることが可能になります。法的な手続きを専門家に任せることで、精神的な負担が大幅に軽減されると考えます。

弁護士 申景 秀