紛争の内容
1 クレジットカード利用
依頼者は、会社員時代に、新婚旅行先のハワイでクレジットカードを利用するために、大手信販会社のカードを作成し、利用しました。ショッピング利用であり、夫婦共働きで家計に余裕がありましたので、毎回の一括支払いでした。
2 離婚に伴う養育費支払い
8年前に離婚し、二人の子の親権は、母親が持ちました。
子の養育費として、子がそれぞれ二十歳になるまで、毎月3万2000円を支払うという合意がなされました。
3 新型コロナウィルス禍における雇用関係の解消、再就職先からの整理解雇
依頼者は、都内の保険代理店に勤務していましたが、新型コロナウィルス禍もあって、雇用関係を解消せざるを得ませんでした。
支払われた退職金100万円で、出身地に戻り、地元企業に再就職しましたが、収入が安定せず、養育費の支払いが滞るようになったとのことです。
依頼者は、勤務後6カ月ころに、整理解雇の対象となりました。しかし、依頼者は、この無効を争い、解決金を80万円ほど得たそうですが、それらはすべて、生活費に充てざるを得ず、養育費の支払いを滞っていました。
その後、失業保険給付を受けましたが、やはり、養育費の滞納分などの捻出はかなわず、また、出身地の地方都市にはこれといってよい就職先がなかったとのことです。
このような状況であることから、二人の子の親権者である元妻に、無収入であるので、養育費を支払えないこと伝えていたそうです。
4 不眠症、メンタル疾患の悪化
再就職のために、埼玉県に転居し、介護事業所関連会社に就職しました。
手取りも月額37万円と好条件でした。
依頼者は、民間企業に10年以上勤務した後に、就職した公務員時代から、双極性障害があり、通院し、投薬治療を受けていたそうですが、埼玉県で再就職した数カ月後から、仕事のストレス・プレッシャーからか、不眠がひどくなったとのことでした。
勤務先と相談したところ、体調不良であるなら、辞めてもらうという話になり、依頼者は勤務先の仕事の内容にはやりがいを感じていたのですが、所属した部署は上司と依頼者だけであり、またその他の部署も5,6人と小さな会社でしたので、会社に迷惑をかけると思い、退職を決断したとのことです。
ただ、勤務先は、会社都合退職として扱ってくれ、失業保険は早期に支給されたそうです。
5 再就職困難、生活保護受給
失業保険は、令和6年7月まで支給される内容でした。
他方、その前月6月には、滞納が続いていた信販会社から、一括支払いを求める通知が来ました。金額は150万円ほどでした。
依頼者は、到底支払うことができませんから、法テラスで相談を受けました。
相談に来た依頼者に、再就職の見込みを尋ねましたが、やはり、体調の回復が十分ではなく、再就職は困難であろうと見込まれました。
そこで、速やかに再就職がかなわないのであれば、生活保護を受給して、破産手続をとることを勧めました。
その後、依頼者は、7月下旬に、最後の失業保険が入ったそうですが、再就職がかなわなかったとのことです。
依頼者は、翌8月には、居住する市役所の福祉課に生活保護受給を申請し、その下旬には、受給が決定されました。
そこで、改めて、法テラスに民事法律扶助を申請し、法律扶助の決定を受け、破産申立てをすることになりました。
6 体調の悪化
依頼者は、新型コロナウィルス禍で就職が困難でなければ、また、仕事のストレス・プレッシャーをうまく対応できれば、遅れていた養育費の支払いを再開し、また、審判会社の支払も再開し、滞納も解消し、生活を維持できたのではないかとの認識でした。
しかし、弁護士に依頼した後も、体調は回復せず、むしろ、悪化する傾向もあり、申し立ての準備の指示を満足にこなせず、不十分な状況のままで、申し立てせざるを得ませんでした。
本事例の結末
依頼者の体調不良の状況、当事務所から申立準備の指示への対応状況が極めて困難であることなど、依頼者の事情を説明する報告書を裁判所に提出し、これ以上の資料追加は当分の間困難であることを説明しました。
裁判所は、このような債務者の状況を斟酌し、提出した資料と依頼者から聴取した事情の陳述書のみで、本債務者に破産手続開始決定を出しました(同時廃止)。
破産者の借入金の使途は明朗であり、就業困難による返済資金の枯渇は債務者の病状などを鑑みるとやむを得ないものとする申立人の意見も考慮していただき、免責不許可事由はないとして、免責を許可する決定がなされました。
本事例に学ぶこと
依頼者に対しては、体調が回復して再就職が叶えば、その収入次第では、破産の選択はありませんでした。
また、体調がすぐれず、再就職もかなわないのであれば、無理に埼玉県内に居住せず、実家に戻ってはいかがかと提案しました。
しかし、実家のある地方都市には、就職先はそもそもないに等しく、県庁所在地周辺に居住しなければ、再就職すらできないであろうとのお考えでした。
そこで、体調も回復せず、失業保険給付が終了した翌月には、居住地で生活保護受給を申請し、その決定を受け、法テラスを通じて、弁護士費用の立替を受け、本申立をなすに至ったものです。
仕事について、収入を得、返済をしたいと希望される誠実な方も、体調回復しなければ、再就職活動すらできません。そのような方のために、福祉があります。
生活保護費は、税金を原資としておりますから、返済に充てることはできません。よって、それほど高額でなくとも、返済は不可能として、破産手続をとるほかありません。
当事務所では、債務を抱えながら、生活保護を受給するに至った方の自己破産申立てについても、十分な経験を積んでおり、的確なアドバイス、破産申立ができることを自負しております。
弁護士 榎本 誉