紛争の内容

① 自宅マンション保有の債務者が前代理人辞任後、当事務所依頼。
② 運送会社勤務の会社員、夫婦共働きであり、住宅ローン特則付個人再生の方針を維持。
③ 事件打合せ、資料準備に手間取り、申立に至らないうちに、債務名義を得た債権者が給与差押。
④ 妻の収入も途絶えがちになり、自宅を手放すことを決意し、方針を自己破産とする。
⑤ 定年間際であったため、退職金の財団組入れが問題であった

交渉・調停・訴訟などの経過

① 定年1年を切っていたため、管財人は、裁判所と協議し、財団組入れを退職金積立額の8分の1ではなく、4分の1相当とする方針を伝える。破産者は、退職までの給与・ボーナスからの積み立てを受け入れる。なお、申立て準備中に、配偶者名義の自動車ローン支払いの肩代わりが認められたが、当該支払分を否認権の対象として、その返還分も含む趣旨と説明を受け、債権者集会に、破産裁判所裁判官の確認も得た。
② 管財人は、債務者の支払停止後に、給与差押で満額の債権回収をした債権者に対し、任意の返還請求、否認請求をしたが、効を奏さず、否認訴訟となった。
③ マンションは、任意売却叶わず、競売となり、破産者一家は同じ市内に転居した。
④ 破産者は定年退職し、退職金満額の支給を受け、また、確定拠出年金から相当額の受給を得ることが、管財人転送郵便物から判明した。
⑤ 破産者の配偶者は交通事故の受傷からの体調回復が思わしくなく、職務復帰ができなかった。破産裁判所は、管財人と協議をし、破産者配偶者への自動車ローン立替え返済分については、破産者からの無償支出として全額(160万円相当)が無償否認の対象であり、配偶者は支払い能力ないが、退職金などの支払いを受け、家計に余裕が出た破産者の支払い協力を提案した。
⑥ 上記の破産裁判所の当初の確認は、前提事実が異なること、破産手続き中に、破産者一家において、財政的資力回復したこと等に照らし、財団組入れの加算を求めたものと説明された。破産者は、妻の責任(返還義務)は、自分(夫)の責任であるとの考えを述べ、負担する意思があることを管財人に伝えた。管財人と協議の上、上記立て替え金総額の半金の支払となった。これは、先に、対処金の4分の1相当の組入れ経過も加味してのことであった。
⑦ 否認訴訟は、管財人は請求額の端数カットほどで和解し、上記形成された財団から、配当がなされ、破産手続は終結した。
⑧ めでたく、免責許可。

本事例の結末

貸金業者からの訴訟提起の報告ないまま、給与差押を受けて初めてそれを知った。
申立て準備に協力的であれば、個人再生可能であったかもしれない事案であった。
しかし、依頼者は、残ローンと、評価額の差額が莫大であることを知り、住宅異時の意欲を喪失し、給与さしおさせによる手取りの減少、配偶者の収入途絶により、支払い困難となっていたため、無理に個人再生を選択しなくてよかったとも言える。
定年退職後再雇用もされ、65歳まで就労可能な状況にあり、生活の平穏を取り戻している。

本事例に学ぶこと

共働きを前提としての個人再生は他方配偶者の収入の変動、債務の有無・多寡により、実現までのリスクが現れることがあります。
住宅の維持を再考され、自己破産により、収入に合わせた生活の再建が望ましく、それがかなった事案でした。

弁護士 榎本誉