事案の概要
貨物運送の個人事業主をしていたが売上減少や新型コロナウイルス感染拡大の影響により徐々に負債が増え、任意整理等を経由したが、返済が追い付かなくなったとして破産手続申立てがされたケースについて破産管財人に選任されました。

申立人はその後に別会社と業務委託契約を締結し貨物運送の個人事業を継続しているという状況でした。

主な管財業務の内容
業務委託料の処理に加え、親族への援助と思われる支出や配偶者名義の返済等の事情があったため、それらの調査業務が主たる管財業務となりました。

業務委託料については各月末締め、翌々月末払いという仕組みとなっていたため、開始決定日時点ではおよそ2か月分の請求権が存在するという状況でした。

申立人は個人事業主ではあるものの1社のみから仕事を受注していたため、業務委託料は給与に近い性質であり自由財産拡張の対象となると判断されましたが、支払いサイトの関係からおよそ2か月分を自由財産の枠に参入するという形になりました。

親族への援助については少額を定期的に行っているものであったため扶養義務の範疇と考えられ、配偶者名義の返済については配偶者が自身の収入から行っているということが判明したため、いずれも裁判所と協議の上、特段、問題視すべきものではないとの結論になりました。

本事例の結末
申立人には業務委託料のほかに一定の財産が存在しましたが、業務委託料を自由財産拡張の対象とすることで自由財産として認められる99万円の枠を超えてしまう部分については、その超える部分について財団に組み入れてもらうという処理をしました。

財団への組み入れ分は少額であったため、債権者に対する配当までには至らず、初回の債権者集会において破産手続は異時廃止で終了となりました。

また、申立人の負債の原因等から免責不許可事由は認められなかったため、免責手続については債権者集会後に免責許可決定がなされました。

本事例に学ぶこと
個人事業を営む中で負債が増大したというケースではその個人事業自体の収支に問題があることが多いため、破産手続申立準備の段階で廃業するということが多いのですが、稀に現在の収支には問題がないという前提のもと個人事業を継続したまま破産手続の申立てがなされる場合があります。

個人事業主の破産手続における特殊性の一つとして、取引先に対する売掛金等の請求権が申立人の財産としてカウントされるということがあります。

専従の取引先において業務に従事しているという場合には、会社で働いて給与をもらっている状態と同視できるとして、売掛金等の請求権が自由財産拡張の対象になることがありますが、その場合でも自由財産の99万円の枠は変わりませんので、その他の財産がある場合には売掛金等の請求権を含めた財産の総額が99万円を超えてしまうということも少なくありません。

99万円を超える自由財産の拡張は基本的に認められないため、99万円を超える財産を保有しようとする場合には、99万円を超える部分について手出しを余儀なくされることになります。

個人事業主の状態のまま破産等手続を行う場合には売掛金等の請求権が財産としてカウントされることを念頭に置いて準備を進めていくことが重要となります。

弁護士 吉田 竜二