紛争の内容
宝飾品の製造販売事業を開業するにあたり、公的融資のアドバイス・コンサルタントを受ける中で、融資を受ける関係費が多くを占めたことから、インターネットを通じて、エンジェル投資家の知遇を得たが、同人からの詐欺被害にあり、結果、開業に至らず、多額の負債を抱えたままであった債務者が、給与所得者として経済的に再出発するために、破産手続きを利用した事案

交渉・調停・訴訟などの経過
開業資金融資を公的な金融機関から得るための、コンサルタントを利用したところ、その報酬以外に、同人への紹介者とする中間の人物から、報酬として、融資金の2割を支払うように求められました。

破産者は高額に過ぎるとして、支払いをいったんは拒絶したそうですが、その紹介者は、破産者の親族の個人情報を把握されていたことから、親族への影響を恐れて、やむなく支払いました。

公的融資を得るための、事業計画を実現するためには、その300万円は破産者にとっては想定外の出費でした。
そこで、インターネットを通じて、エンジェル投資家と知り合いました。

エンジェル投資家とは、起業して間もない企業に資金を出資する投資家のことです。

企業のスタートアップにはある程度の資金が必要で、その資金調達方法はさまざまです。
自己資金で賄うことは困難で、そのほとんどが銀行や国や自治体が運営する公的な機関からの借り入れもしくは助成金を受けたり、ベンチャーキャピタルから資金調達することもありますが、投資家はそのスタートアップ企業の成長に着目し、出資した企業の成長を配当や株式で受け取ったりするのが一般です。

しかし、破産者が知り合った投資家は、自らが投資するのではなく、融資者を紹介するというように変化し、さらに、破産者に融資するには、その返済が可能である資力を示す必要があるとして、まずは、融資予定者に送金するよう指示します。

破産者は、事業計画実現のためには、不足した開業資金の補填が必要と焦り、その投資家の言いなりに、投資家の配偶者と称する人物の口座に数百万円を送金しました。

すると、50万円の融資金が何度か、破産者の口座に送金されましたが、しかし、破産者が送金した金額合計の3分の1以下程度しか送金されませんでした。

その後、その投資家とは連絡が取れなくなり、破産者も事業を全く軌道に乗せることができず、あきらめ、会社員として勤務し、給与から返済することになりました。

きつい返済をする中、警察署から、破産者の名義を用いて、その投資家が詐欺を働いていることが判明しました。
その投資家は融資詐欺の常習者であり、破産者も被害者の一人であり、また、破産者の名義で融資詐欺が行われていたことから、警察から聴取を受け、その行為者の氏名がわかり、被害届を出すことになりました。

このような状況で、破産申立てをしました。

本事例の結末
まず、公的機関から融資を受けた際の、「報酬」が不明朗であり、また、多額であることは暴利行為に該当するのではと調査することになりました。

融資を引き出すことがかなったコンサルタントは、中小企業庁へも登録をしている事業者でしたので、確認が取れました。
さらに、そのコンサルタントへの紹介者と称する人物は、破産者が記憶していた人物ではないこと、コンサルタントまでの間に、2,3名以上の紹介者が介在し、破産者の記憶していた人物とは異なる氏名の人物が同コンサルタントへのつないだ人物でした。
その人物と連絡は取れましたが、その人物は、破産者に融資が実行されたことを知らないようでした。

中間に介在する氏名不詳者が、破産者をいわば脅して200万円を支払わせたようですが、その人物の住所・氏名を特定することはかないませんでした。これについては、そもそも返還請求権が認められるか不明であるとして、破産者の財産目録には資産として計上しませんでした。

他方、融資詐欺の行為者である夫婦は、すでに5年以上前から、その悪質性は顕著であることが、他県の弁護士のホームページの記述から、詳細が判明しました。

この融資詐欺の常習的は夫婦は、民事裁判において、裁判上の和解を交わすも、誠実に履行することは全くせず、また、主犯である夫は、すでに、詐欺罪で懲役刑が確定していることが確認され、現在も服役中であろうことが推測されました。

このような人物と、その妻に対して、破産者は、少なくとも220万円の損害賠償請求権を有していましたが、これらは、回収は不可能として、破産裁判所から財団からの放棄の許可を受けました。

めぼしい財産のない、本破産者については、費用不足による破産手続の終了(異時廃止)となりました。

また、開業資金の融資を受けながら、正式な開業に至りませんでしたが、事業計画を誠実に実行しなければと思いに、焦りがあり、それに乗じて詐欺被害に遭ったこと、それ以外には浪費などもないことを踏まえて、免責不許可事由はないものと認識されました。裁判所は、本破産者の免責を許可しました。

本事例に学ぶこと
詐欺の被害者であり、加害者が判明しても、刑事手続き中にあったり、その詐欺の行為者の財産が判明せず、残念ながら、被害回復、そして、破産財団の充実は図れませんでした。

本債務者は、破産手続きを取り、破産管財人の調査に協力し、結果、免責の許可も出、経済的に再出発が可能となりました。
本債務者は、不可能な回収をあきらめ、債務整理に絞ったことで、結果として、早期の再出発が可能となりました。

裁判官からも、融資を得たいとする経営者をだます人物がいること、世間は甘いものではないこと、開業のためには十分な検討・準備をされるべきことが説諭され、破産者も納得していました。

弁護士 榎本誉