弁護士 平栗丈嗣



銀行等の金融機関、消費者金融、クレジット会社などからの債務を整理して過大な支払を救済するには、大きく分けて、自己破産、個人再生、任意整理、特定調停の4種類があります。以下、それぞれの制度の特色、メリット・デメリット等を説明していきます。

自己破産

自己破産手続の概要

裁判所に対して破産の申立をします。債務者(借金の返済に行き詰まった方)の財産をお金にかえ、債権者(銀行等の金融機関、消費者金融、クレジット会社等)に配当しますが、家財道具などはそのまま残すことができますし、また、99万円までの預貯金などは自由財産として残すことが可能ですので、財産が何もかもなくなるということはありません。

また、配当するお金がない場合には、債権者への配当は行われません。

裁判所から免責決定を受けることができれば、借金はゼロになり、経済的に再出発することができます。借金したお金の多くを浪費してしまっている、詐欺のような行為をしてお金を借りたというような場合は免責になりませんが、ほとんどのケースで免責決定が出ています。

自己破産のメリット

借金が免除される

養育費、滞納税等の租税債権など一部の債権を除いて、支払義務が免除されます。つまり借金がゼロになります。

弁護士に依頼後は、債権者からの取り立てが止まる

弁護士から債権者に対して、依頼を受けた旨の通知が行くと、銀行等の金融機関、消費者金融、その他の債権者からの督促は止まります。家族が連帯保証人になっていない限り、家族への取立ての連絡が行くようなこともないはずです。

破産開始決定後の収入は自由に使うことができる

破産開始決定後に、働いて貯めた資産は、債権者に対する配当の対象にはならず、破産者が自由に使ってよいということになります。

破産手続きに関して債権者の同意を得る必要がない

自己破産の場合は、個人再生や任意整理と違い債権者の同意を得る必要はありません

比較的短時間で手続きが終了する

破産申立をしてから免責許可決定が出るまで、破産管財人がつかない場合は4ヶ月~6ヶ月位で解決できます

自己破産のデメリット

住宅、自動車、その他財産を失う

多くの場合、債務者の有してる財産は処分され、債権者への配当へ充てられます。もっとも、古い自動車であって生活に不可欠な場合など、例外的事情の下では、自動車を手元に残すことも考えられます。

職業制限

破産手続きが開始されると、様々な資格制限・職業の制限が発生します。もっとも、裁判所から免責決定を受けて復権すれば、制限は外れます。
特に、多くの方に影響しうる職業の例を挙げますと、宅地建物取引士(旧宅地建物取引主任者)、警備員、生命保険外交員などです。

制限される資格・職業の内容は、大まかに言って、他人の財産を管理することを業務内容とするものです。破産をしなければならなくなった人に、他人の財産に触れるような仕事をさせるわけにはいけない、という趣旨に基づいていると考えられます。

意外なのは、警備員です。金融機関からの現金輸送や、誰もいない施設管理であれば、財産管理という意味合いから理解できます。ところが、工事現場の交通誘導員も警備員です。そのため、破産手続きに伴う職業制限を受けてしまいます。

警備会社に、交通誘導員の仕事の面接に行くと、破産者でないか確認されます。これは、警備業法に基づいて欠格事由にあたらないかの確認の意味合いでなされているのです。

官報掲載

自己破産・民事再生等の手続を行うと、官報という国が発行する新聞に住所氏名が掲載されてしまいます。一般的に官報をチェックするような方は少ないでしょうが、公務員等の職業であれば、職場である官公署は毎日チェックをされるケースがあるようです。

また近年(2022年現在)問題になっている、破産者マップは、官報掲載情報を基に作成されています。破産者マップ自体は問題であるとしても、事実上インターネット上に公開されてしまうという問題は生じえます。

(小規模)個人再生

小規模個人再生手続の概要

裁判所に対して個人再生の申立をします。その後は、法律に定められた条件に基づいて借金の額を減らし、返済計画を立てて、原則として3年間(最長5年間)で分割払いでの返済をしていきます。通常は、借金の額を20%(最低100万円)に減額することができます(借金が500万円であれば100万円に減額することができます)。

分割返済をきちんとすることができた場合には、減額された残りの借金については、法律上、支払が免除されることになります。

住宅ローンを抱えているが、住宅を維持したいという場合は、住宅ローン条項を使うことにより、住宅を手放すことなく、この手続を利用することが可能です。ただし、この場合、住宅ローンについては、原則として当初の約定にしたがって支払いを続ける必要があります。

個人再生のメリット

自己破産の場合と異なり、ご自分の財産(家、自動車(ローンが終了しているもの)、預貯金、有価証券、保険など)を処分する必要はありません。

借金の減額の程度は、借金の総額によっても違いますが、多くの場合、
①利息制限法に従って再計算した元金の20%を、
②将来金利なしで、
③3年間(あるいは5年間)で分割払いをしていく、
ことになります。

また、住宅ローンを抱えており、住宅を維持したいという場合にも、住宅ローン条項を使うことにより、住宅を手放すことなく、この手続を利用することが可能です。ただし、住宅ローンについては、原則として、当初の約定にしたがって支払いを続ける必要があります。

個人再生のデメリット

まず、自己破産の場合と異なり、ある程度安定した収入が得られる必要があります。将来3年あるいは5年かけて、安定して支払できると客観的に認められなければ、個人再生の手続を選ぶことが困難になります。

小規模個人再生手続の場合、債権者の過半数(債権者の数の過半数、かつ、債権者の合計債権額の過半数)の同意のもと、裁判所の認可を得て決められることになるため、場合によっては、その同意、認可が得られないということがあり得ます。

給与所得者再生手続の場合は、債権者の同意は不要ですが、借金の減額幅が少なくなります。また、そもそも、小規模個人再生手続よりも、将来安定した収入が得られる見込みがあると認められるかどうかのハードルが高くなります。

任意整理

任意整理手続の概要

任意整理とは、弁護士がサラ金業者などと交渉することによって、債務を減額させたり、分割払いでの返済をしたりすることで、債務者の負担を軽減し返済をしていく方法を言います。

裁判所を利用しないので、手続きとしては簡単ですが、サラ金業者などが強硬で、減額や分割払いに応じない場合は、債務整理ができなくなってしまう可能性があります。

任意整理のデメリット

任意整理については、昨今の情勢からすると、デメリットばかりというのが実際のところです。

まず、金融機関は、実質的にほとんど交渉に応じてくれないことがままあります。支払わなければならない元本を一部カットしてくれることなどほぼないでしょう。それどころか、弁護士などが介入してからの利息・遅延損害金のカットにも応じてくれないことも多くあります。長期間での弁済にしてもらうことは考えられますが、さすがに10年等の返済となると、金融機関としても貸倒リスクが大きいため、交渉に応じてもらうことは困難でしょう。

過払い訴訟が起こる前(金融機関が違法な高利収入を得ていた時代)であれば、金融機関にも経済的な体力があったため、交渉に一定程度応じてくれることも考えられましたが、現在は金融機関にそのような余裕はなく、和解の内容は極めて厳しいものに終わってしまうことが多いです。

唯一、任意整理を使うメリットとして考えられるのは、例えば数ヶ月さえ債務支払を待ってもらえれば、まとまった金銭が入る見込みであり、一時しのぎをしたい場合です。この場合であれば、裁判所の手続を経ない分、手続も簡便で、任意整理を使うメリットが考えられます。

このような例外的事情以外の場合には、弁護士費用や司法書士費用ばかりがかさみ、債務者にとって一体どのような成果が得られるのか大いに疑問です。

重大な勘違い~債務整理についてのポータルサイトに注意~

昨今、あらゆる情報がインターネット上にあふれ、専門的な情報にも容易にアクセスできるようになりました。債務整理についてもその例外ではありません。
しかし、その内容は玉石混交であり、時には誤った情報が掲載されているものがあるため、注意が必要です。

最近見つけたサイトを例にあげますと、
「弁護士のところに相談に行って、自己破産の方法を先に示す弁護士は悪徳弁護士だ。まずは、ブラックリストに載らない(今後の借入に影響がでない)任意整理の方法によるのが当たり前だ。破産手続はとても楽な手続であり、弁護士が儲かるため、やたら破産を薦めてくるのだ。だから、○○(いくつか司法書士事務所や法律事務所が掲載)に頼むのが良い。」
などと掲載されていました。

まず、任意整理、すなわち、弁護士や司法書士が、各金融機関・カード会社に対し、毎月の支払金額の減額、支払期間の猶予、利息・遅延損害金のカットの交渉を連絡した段階で、その債務者はいわゆる信用事故を起こしてしまっているわけですから、当然ブラックリスト(CIC・JICC等の信用情報機関)に載ります。任意整理であれば何も問題がない、という説明は誤っています。

次に、破産申立手続にあたっては、多くの資料を揃えねばならず、債務者にも資料の提出・家計簿の記入・情報の提供・これらを踏まえた申立書の作成、など決して楽な手続などではありません。ましてや、その後、破産管財人がついた場合には、さらに手続は複雑となります。

任意整理をすることが間違いとは言いません。調整しながら、借りたものを何とか返していくということはもっとも望ましいといえましょう。
しかし、債務者によっては、そのようなことが非現実的な方も多くいらっしゃいます。任意整理で一時しのぎをしても、抜本的な解決にならないことが多いのです。そうすると、遅かれ早かれ破産手続をしなければならないのに、むやみに任意整理のための報酬を弁護士や司法書士に支払うことになっているのです。

特定調停

特定調停手続の概要(東京地方裁判所ホームページより)

「特定調停というのは、債務の返済ができなくなるおそれのある債務者(特定債務者)の経済的再生を図るため、特定債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を行うことを目的とする手続です。

特定調停手続は、経済的に破綻するおそれのある債務者であれば、法人か個人か、あるいは事業者か否かを問わず幅広く利用することができます。そして、合意が成立し、これを調書に記載したときは、その記載は確定判決と同一の効力がありますので、債務者としては、これに従って弁済すればよく、それ以上の取立てを受けることはありません。」

以上が、東京裁判所ホームページに掲載されている説明であり、詳細は方法についても裁判所ホームページで案内されています。
https://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/l4/Vcms4_00000346.html

イメージとしては、任意整理手続きを、債務者本人が、裁判所で行うということです。
費用が低廉であるというのが大きなメリットではありますが、その実効性という観点からいうと、正直申し上げて疑問に感じます。

弁護士に依頼するメリット

次に、司法書士と比べた場合に弁護士に依頼するメリットを交えてご説明します。
まず、インターネットで検索した場合、弁護士事務所と司法書士事務所がでてきて、両者の違いが不明かと思います。

例えば自己破産を依頼する場合に、弁護士と司法書士に依頼した場合の違いはなんでしょうか。自己破産や個人再生は地方裁判所(例えば埼玉の場合は、さいたま地方裁判所等)に申し立てを行う必要があります。

弁護士に依頼した場合は、弁護士が債権者に連絡をとり窓口になるほか、代理人として裁判所に手続きの申立てをします。また、裁判官・書記官・破産管財人・個人再生員といった関係者とも、弁護士が連絡をとりあいます。

他方で、司法書士は、特定の分野しか代理人業務をすることができず、自己破産や個人再生では代理ができません。どういうことかというと、要は司法書士の場合は、申立の書類をつくってもらうだけであり、債権者の窓口になることもできませんし、裁判所とのやりとりも自分でやる必要があります。

その分、報酬等を弁護士より少し安くしている所もありますが、様々な対応を個人がやることになるので負担は大きいです。

弊所では、債務整理の法律相談について相談料無料で承っています。相談者の家計の状況等、様々な情報を聞き取り、どのような解決ができるかの診断をします。