自己破産手続において、一定以上の財産がある場合や、免責不許可事由の調査が必要な場合などには、裁判所から「破産管財人」が選任されます。破産管財人は、裁判所の監督のもと、破産者の財産を調査・管理し、債権者への配当や、免責を許可すべきかどうかの調査など、中立公正な立場で手続きを進める役割を担います。

今回は、私がさいたま地方裁判所から破産管財人に選任され、個人の破産事件を無事に終結させ、破産者の経済的再生のお手伝いをした事例について、管財人の視点からご報告いたします。

① 事案の概要:管財事件としてのスタート
本件の破産者M氏は、家族の病気のための借入れを強要され、借金が増えているという方でした。また、申立自体は、弁護士ではなく、司法書士の方が書類を作成しており、本人申立という形でした。

弁護士申立ではないこともあり、調査が必要であると判断した裁判所は、破産手続開始決定と同時に、私を破産管財人に選任しました。

② 管財業務の経過:破産者の協力のもと、着実な調査・処理
管財人として選任後、第一回の債権者集会(約3ヶ月後)までの間に、以下のとおり職務を遂行しました。

  • 転送郵便物の確認と新たな債権者の把握:
    まず、郵便局に手続きを行い、M氏宛ての郵便物を管財人事務所に転送してもらいます。これは、申告されていない財産や債権者がいないかを確認するための重要な業務です。債権者が発覚しましたので、直ちにその債権者に対し、破産手続が開始された旨の通知を発送し、債権届出の機会を保障しました。
  • 破産者との管財人面談・事情聴取:
    M氏に事務所へ来てもらい、管財人面談を実施しました。破産に至った経緯、財産や負債の内容について詳細な事情を聴取し、申立書類との齟齬がないかを確認しました。M氏は、包み隠さず誠実に質問に答え、自身の事業運営について深く反省している様子でした。このような真摯な態度は、後の免責調査において重要な要素となります。
  • 債権回収の可能性の検討:
    債権回収可能性を確認し、回収すべきものがないことを確認しました。
  • 自由財産拡張についての検討:
    破産手続では、原則として高価な財産は換価・配当の対象となりますが、破産者の生活再建のため、一定の範囲で財産を手元に残すことが認められています(自由財産)。M氏の場合、99万円をこえる財産はなく、問題となるものはありませんでした。
  • 債権者集会への準備:
    上記の調査結果をまとめ、財産目録や収支計算書を作成し、裁判所と債権者に報告するための準備を進めました。

③ 本事例の結末:第一回債権者集会での終結と免責許可
第一回の債権者集会当日、私は裁判所と出席した債権者に対し、これまでの調査結果を報告しました。具体的には、財産の調査・換価状況、その使途等を説明し、本件では債権者への配当は見込めないため、破産手続を終了(異時廃止)させたい旨を述べました。

次に、免責に関する調査結果として、M氏に特に免責不許可事由(浪費や財産隠しなど)は見当たらなかったこと、そしてM氏が手続に誠実に協力し、深く反省していることから、「免責を許可することが相当である」との意見を裁判所に述べました。

裁判所はこれらの報告と意見を受け入れ、その場で破産手続の廃止を決定し、後日、Mさんに対する免責許可決定を下しました。これにより、Mさんは法律上、借金の支払義務を免れ、経済的な再出発を果たすことができました。

④ 本事例に学ぶこと:誠実な対応が円滑な解決と再出発に繋がる
本事例から学べることは以下のとおりです。

  • 破産管財人は敵ではない:
    管財人は、破産者を罰するためではなく、法に則って手続きを公正・円滑に進めるための中立な存在です。むしろ、自由財産拡張の意見を述べるなど、法律の範囲内で破産者の生活再建に配慮する役割も担っています。
  • 手続への誠実な協力が不可欠:
    破産者自身が、管財人の調査に誠実に協力し、財産や負債について正直に話すことが、手続きをスムーズに進め、最終的に自身の免責許可を得るための最短ルートとなります。財産隠しなどは絶対にしてはいけません。
  • 郵便物転送の重要性:
    転送郵便物の確認は、申告漏れの債権者や財産を発見するための重要な手続きです。これにより、全ての債権者に手続参加の機会を与え、後々のトラブルを防ぐことができます。
  • 自由財産拡張制度の活用:
    破産をしても、全ての財産を失うわけではありません。今後の生活に必要な財産は、自由財産拡張の制度によって手元に残せる可能性があります。
  • 弁護士への相談から始まる再出発:
    自己破産は、人生の終わりではなく、再出発の始まりです。手続が複雑な管財事件であっても、申立代理人や破産管財人といった専門家のサポートを受けながら、誠実に対応することで、必ず道は開けます。

もし、借金問題でお悩みの方がいらっしゃいましたら、一人で抱え込まず、まずは破産事件に詳しい弁護士にご相談ください。適切な手続きを選択し、あなたの経済的再生を全力でサポートいたします。

弁護士 時田 剛志